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内田庶「人類のあけぼの号」 [読書]

 僕は今でこそ普通に本や新聞を読むが、小学生の頃はマンガしか読まない子供だった。文字がたくさん並んでいる本が苦手だった。だから夏休みの宿題の読書感想文なんて苦手中の苦手だった。この傾向は中学校になってもしばらくは変わらなかった。

 中1の終わり、たしか3月だったと思う。姉が友人からある本を借りてきた。タイトルは「人類のあけぼの号」、著者は内田庶(うちだちかし)。少年向けのSF小説だった。(いわゆるSFジュブナイル) テーブルの上に置いてあったのを何気なく手に取って読み始めたら、夢中になってしまい、ごく短時間で読み終えたことを覚えている。この出来事は僕にとって非常に大きな意味のあるものだった。このことをきっかけにして、僕は読書の楽しさを知り、以後、貪るように読書に熱中し始めたのだった。(僕が眼鏡をかけ始めたのはこの頃からである)

 この「人類のあけぼの号」という作品、あれほどまでに感動したにも関わらず、その後、人気が出ることもなく、月日が流れて忘れられてしまったように思う。しかし僕にとっては忘れられない本だった。最近ふとしたことから、この本をネットの古本屋で見つけ、懐かしくて買ってみた。送られてきた本は、傷みや変色がほとんどなく、非常に保存状態のよいものだった。
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 初めて読んだときのインパクトが大きかったので、ストーリーはよく覚えている。しかし、再び読んでみて、当時の興奮が蘇ってきた。どんなストーリーだったかを紹介したい。作品としては残念ながら、もう時の洗礼を受けて忘れられてしまった感があるが、僕にとっては事実上、人生で初めて出会った本と言っても過言ではない。読書の楽しさを初めて教えてくれた、初恋のような、忘れられない本だった。

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 ストーリーは2026年の未来から始まる。16歳の少年が築地の冷凍倉庫から凍死状態で発見され、2026年の進歩した医学によって蘇生する。この少年は1975年に、ある事故で冷凍倉庫に閉じ込められたのだった。結果的に51年のタイムスリップをしたわけである。

 少年は自分の生い立ちを医師に語った。少年の名前は加藤真琴、父親はロボット工学の権威の加藤徳三博士だった。1975年、真琴は父親の助力を得て、従来にないほど精巧な人間形のロボットを開発した。少年はこのロボットに「人類のあけぼの号」と名付けた。このことは大ニュースになり、資本家たちは製造権を獲得して儲けようとし、労働者たちは失業を恐れて連日研究所にデモに押し掛けた。

 そんな矢先、「人類のあけぼの号」が加藤徳三博士を撲殺するというショッキングな事件が起きた。現場では加藤博士が頭から血を流して死んでおり、「人類のあけぼの号」は、腕に博士の血がべっとりついた状態で故障していた。発明者の真琴が真っ先に疑われた。加藤徳三博士はロボットの特許を無償で公開しようとしていた。真琴はそれが気に入らなくて(つまり儲けたくて)加藤博士を、ロボットを利用して殺したのだと思われてしまったのだった。

 真琴は警察からマークされ、連日押し寄せるデモに精神的に疲れ果てた。そして従兄の竜平に勧められ、南米に逃亡することを決意。船に乗るために晴海埠頭に来たところで、警察に追い詰められてしまう。そして冷凍倉庫に逃げ込んだところで自動扉が閉まってしまったのだった。

 51年後の未来で、真琴は自分が父親殺しの汚名を着せられたままであることを知った。そして2026年に発明されたばかりのタイムマシンで人生をやり直すことを決意した。1975年の、ちょうど殺人事件が起きた晩に真琴は戻った。そこで見たものとは・・・・・・

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 あとは言えない(笑)。この記事を読んで興味をもち、読む人もいるかも知れないので、肝心なところは隠しておこう。ロボットの特徴を利用した、「なるほど、その手があったか」と思わせるようなトリックが使われている。SF小説と推理小説を合体させたような、非常によくできたストーリーだったと思う。どうしてメジャーにならなかったのか不思議なくらいだ。

 この本は、鶴書房のSFベストセラーズというシリーズの中の一冊だった。巻末にシリーズ14冊の広告が載っている。当時人気のあった作品を14冊選んだものだろう。僕はこの14冊をすべて中2の頃(1977年)に読んだと思う。しかし、ほとんどの作品は淘汰されてしまった。唯一、筒井康隆の「時をかける少女」だけが残っていて今でも繰り返し映画化されているようだ。
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 懐かしかった。新しい本を読むのもいいが、年を取ると、昔の感動を思い出すというのも楽しみの一つになる。それが年寄の懐古趣味だ、などと言われても一向に構わない。楽しいものは楽しい。もう一度読みたくなるような本に出会えたことを幸福に思う。

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るるぶぅ

人類のあけぼの号面白そうですね!というか、ひぐらしさんの本の紹介の仕方が実に続きを読みたくなる書き方です。新聞の本の紹介欄に書く人になってほしいですwww
by るるぶぅ (2012-09-18 19:56) 

ひぐらし

るるぶぅさん、こんにちは。良かったら、お貸ししましょうか。ただ、クライマックスより前の筋書きはほとんど書いてしまいましたが(笑)
 この記事を書いた後で知ったのですが、「ジュブナイル」という言葉は最近では「ライトノベル」という言葉に置き換わっているのだそうです。死語だったんですね。
 どんな時代にも少年向けの小説というのはあるようですが、現代の流行のライトノベルを読む気にはあまりなれず、その反面、昔読んだ本をまた読みたいと思うことは非常に多いのです。これは作品の優劣の問題ではなく、自分が感受性の高い頃に読んだ作品を読むことで、自分の少年時代へタイムスリップしたいからなのでしょう。

by ひぐらし (2012-09-19 20:12) 

ナベシ

最近”なぞの転校生”がドラマで放送されてので、ふと中学の時に読んだSFベストセラーズを思い出しました。そう私も中一のときはまった一人です。中学校の図書館にありました。全部はなかったけど…今読んだらあの頃の思い出がよみがえるんでしょうね。
by ナベシ (2014-05-20 18:17) 

ひぐらし

ナベシさん、こんにちは。NHKの少年ドラマシリーズでも、結構ドラマ化されていましたよね。あの当時、SFジュブナイルがブームだったのだと思います。僕も当時、眉村卓には随分ハマりました。「なぞの転校生」も読みました。今読んだら? もちろん、あの頃の思い出がよみがえりますとも。僕は最近、新しい本を読まずに昔読んだ本ばかり読んでいます。
by ひぐらし (2014-05-22 20:28) 

熊猫パンチ

最近、人の仕事が近々人工知能に奪われるだろうとか、囲碁の名人がAIに負けたというニュースが話題になり、そういえばロボット開発者が「ロボットに職を奪われる!ロボット反対!」と迫害を受けるSFがあったな…と思いついて検索した結果こちらにたどり着きました。約35年ぶりになります。懐かしい。
当時、物語の前半と後半でキーとなる船の名前が間違っているぞ(第二○○丸と第三○○丸になっていた)と突っ込んだり、乗り物でないこんなタイムマシンもあるのかと考えながら読んでいたことを思い出しました。
巻末のシリーズ名も…うわぁこれら覚えてるよと顔がほころんでいます。
ちなみに時間砲計画には続編がありましたね。
by 熊猫パンチ (2016-03-19 21:19) 

ひぐらし

熊猫パンチさん、こんにちは。僕と同世代なんですね。懐かしんでもらえてうれしいです。この記事を書いたのは2012年ですが、ごく最近になって、このシリーズを集めてみたくなり、古本屋のサイトとか、ヤフオクとかで、必死で集めました。この写真にあるものは全部あります。ただ、そう、おっしゃる通り、時間砲計画には、続編があります。このリストが出来たあとも、続いて刊行されていたようで、全部集めると結構な数になるのです。まだ全部は集めきれていません。このシリーズは、少年向けだけあって楽に読めるので、会社の昼休みに読んで、楽しんでいます。


by ひぐらし (2016-03-23 22:23) 

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