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初歩のエレクトロニクス製作集 [ラヂオ]

 校長先生と若奥様の一人息子のKちゃんが、昨年から電子工作に目覚めたらしい。ロボットの工作キットなんかを、一生懸命に組み立てているようだ。若奥様は教育熱心だから、早速、どこかから子供向けの電子工作の通信教育を探して来て息子に与えている。しかし息子の方は、テキストよりも実践(つまり工作)の方が面白いらしく、動作原理にはまだあまり興味が行かないようだ。

 しかし、それでいいのだと思う。少なくとも、子供が技術の入り口に立つのは、動くものに実際に触ったときなのだ。「なんだろう」「なんで動くんだろう」と興味を持って、そこから知識が身についてくる。

 また、昔のことを思い出してしまった。

 僕が電子工作に夢中になったいきさつは、過去の記事に書いたとおりである。興味のある人は、「ラヂオ」というカテゴリーをクリックすると関連記事が読めるので参照されたし。まあ、そういうわけで(話の続き(笑))小学校の6年生のとき、ゲルマラジオには挫折したが、その後も電子工作にはずっと興味を持ち続けた。そして、そんなある日、本屋で見つけた本を親にねだって買ってもらったのだった。

 「図解・初歩のエレクトロニクス製作集」。著者は泉弘志(いずみひろし)さんと言って、その世界では有名な人だった。「その世界」というのは、「初歩のラジオ」の世界である。当時、誠文堂新光社から出版されていた月刊誌「初歩のラジオ」の製作記事のレギュラー執筆者だった。この人の書く記事はイラストが豊富で、小中学生レベルの、電子工作に興味を持ち始めたばかりの人にとって、非常に親切な内容だった。僕が買ってもらったこの本は、「初歩のラジオ」の掲載記事から、よい記事を選んで単行本にまとめたような本だった。

 この本の製作記事の中から2つ(注)を選んで作ったのを覚えている。1つ目はブザー、2つ目はサイレンだった。どちらもきちんと動作した。単純な工作でも、うまくいけば嬉しいものだ。部品は例によってS電子部品商会で買い揃えた。秋葉原に行かなくても、隣町にそういう店があったというのは、今思えばかなりラッキーだったと思う。ない地域の人は雑誌の広告をみて通販で買うしかなかっただろう。

(注)2つというのは少ないと思われるかも知れない。しかし、あくまでも「この本で」2つという意味である。電子工作はそれ以来、この年になってもまだやっている。

 2つで終わったのには理由があった。まず電子工作をするには部品代がかかる。そのへんに落ちているものを組み合わせて出来るものではないのだ。しかし子供の道楽のために、そうそうお金をだしてくれる親はいない。電子工作を「勉強」と捉えれば、若奥様のように息子のために通信教育まで用意してくれるような理解ある親になる。しかし、うちの親は僕の工作を単なるガラクタいじりだと捉えていた。それも仕方ない。当時僕がやっていたのは電子工作だけではなかった。つまり電子工作は、数あるガラクタの中のひとつに過ぎなかったのである。

 それともう一つ。回路図を見て部品を揃えて半田付けすれば、目的の物ができることがわかってしまい、「自分のやっていることは単なる半田付け作業だ。回路の意味がわからなければ意味がない」と思い始めたのである。「意味がない」というのは、いささか言い過ぎである。半田付け作業をして完成の喜びを味わうことは、すなわちその道のスタートラインに立つことであり、それがなければ次もない。「意味がない」と感じたのは、次の段階に進みたいという気持ちの表れだったのだと思う。

 この本は、暇さえあれば眺めていたし、開きながら工作をしていたので、半田のヤニの染みがついたり、焦げ目がついたり、リード線の屑を噛み込んだりして、しまいには、ぼろぼろになってしまった。そこまで使われれば著者は本望ではないだろうか。いつ手放したのかは記憶がないが、古雑誌と一緒に古紙回収に出してしまったのだろう。いつの間にか無くなっていた。しかし、つい最近、ひょんなことから、ネットの古本屋で同じ本を見つけて、通販で入手することができた。懐かしい昔の友人に再会したような気分だった。

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 回路図を改めて見てみる。今は小学生の頃と違って、それなりに勉強した後だから、当時わからなかった回路の意味も、それなりにわかる。なるほど、そういうことだったのか。なんて一人で納得したりする。誰かに「これはこういうことだったんだよ」、なんて説明したくなる。泉さんが何を考えて小中学生向けにこの回路を設計したのか、意図がある程度汲めるようになっている自分がいる。そして当時の時代背景も伝わってくる。例えば・・・

◆ハートレー発振回路が結構な頻度で出てくるが、その理由は、それがスーパーヘテロダイン式のラジオの局部発振や中間周波増幅回路と同じ形だから、いずれ子供達がラジオの回路を学ぶときの布石を打ってくれているのではないか、とか。(事実、これを見てから6石スーパーの回路図を見ると、そんなに難しくなさそうに見えてくる。すごい。これぞ入門者教育の神髄というものだろう)

◆音声を発生する発振回路に、NPNとPNPのトランジスタを1個ずつ組み合わせた弛張発振回路がいくつも登場する。たぶん、スピーカーを鳴らす回路としては、これが一番部品点数が少なくて、子供の懐に負担のかからないものなんだろうな、とか。

◆発光デバイスとしてネオン管が多用されているのは、当時はLEDの輝度が弱くて照明に使えないレベルだったからなんだろうな、とか。

◆配線に蛇の目基板(ユニバーサル基板)を使わず、ラグ板を使っているのは、真空管ラジオの立体配線の名残なのではないか、とか。いや。待てよ。当時そもそも蛇の目基板ってあったんだろうか、とか。

 この本に載っている27種類の回路の動作原理を、全て完璧に理解して説明できるようになるには、結構な量の知識が必要になりそうだ。そう考えると初心者向けの本でもあなどれない。昔と違った意味で、この本をもう一度、丁寧におさらいしてみようと思った。そうすることで自分の知識の棚卸しにもなる。

***

 それから、著者の泉弘志氏(1927~2003)について書いておきたい。この人は入門者を育てることが大切だという強いポリシーをもち、昭和23年に「初歩のラジオ」に製作記事を書き始め、同誌が休刊になったあとは「子供の科学」に活躍の場を移し、平成11年まで、実に50年の長きに渡って入門者のための記事を書き続けた人だった。平成15年に逝去。今、僕くらいの年齢の人の中には、この人の記事で電子工作に目覚めて、エンジニアになった人が、相当たくさんいるに違いない。
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