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滝の白糸(6) [読書]

■判決
さて、判決である。

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 検事代理村越欣弥は私情の眼をおおいてつぶさに白糸の罪状を取り調べ、大恩の上に大恩をかさねたる至大の恩人をば、殺人犯として起訴したるなり。さるほどに予審終わり、公判開きて、裁判長は検事代理の請求は是なりとして渠に死刑を宣告せり。
 一生他人たるまじと契りたる村越欣弥は、遂に幽明を隔てて、永く恩人と相見るべからざるを憂ひて、宣告の夕べ、寓居の二階に自殺してけり。
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 欣弥は恩人を殺人犯として起訴し、判決で滝の白糸は死刑となった。そして欣弥はこれを苦に自殺してしまった。このいきさつは、淡々と書かれており、それ以前の詳細な情景や感情の描写にくらべてあまりにあっさりしている。
 この作品の価値が認められ、これが新劇の舞台で公演されたとき、興業者が作者に無断で脚色を行ったため、尾崎紅葉が抗議したといういきさつがある。(尾崎紅葉は泉鏡花の師)新劇の舞台で脚色された部分とは、想うにこの最後の部分ではないだろうか。
 この裁判の場面は、欣弥が苦しみを隠して白糸を尋問する場面、白糸が欣弥に影響が及ぶことを恐れて彼をかばい嘘をつき通す場面に、もっと悲しく切ない男と女の心の彩が描けそうな気がしてならない。
また、現代人の感覚からすると、「犯行の動機」ってものが詳しく調べるはずだから、供述の中に欣也とのいきさつが必ず出てくるはずで、これが一種のスキャンダルになって、そう単純にはいかないはずだと思う。これはひとつの「突っ込み」どころ。でも、それはそれ、泉鏡花の描きたかった不条理の世界を楽しむためには、そういう勘繰りは邪道なんだろうなと思う。

■追記
 そのスナックに翌週行ったとき、またもやその客に遭遇したので、私は思いきって、彼に「この間歌っていた『金沢情話』という歌をもう一回歌ってくれないか」と頼んでみたところ、その人は喜んで歌ってくれた。そしてまた感動してしたった。
「(せりふ)欣弥さん、東京で一所懸命勉強して下さい。学費はきっと、この滝の白糸が工面いたします」

 あまりにも感動したので、この小説を現代文に訳してみたらどうだろう、と考えたことがある。しかし、すぐに無意味であることに気づき、やめた。これほど美しく完成された文語体をなぜわざわざ現代文にする必要があるのだろう。このような文体は我々現代人には敷居が高いが、苦労しても読む価値のある作品であると思った。
                           (終)


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コメント 2

くるみ

もはや住人化(爆)
オリジナル版の結末はもっと残酷で、表現ももっとグロかったようですね;;;
尾崎紅葉がかなり手直しをされたのだと、どこかで知りました。
また映画化などもされていたようですね。
やはり感動の大きさは人を動かし、また語り継がれていくのですね(//▽//)
by くるみ (2006-03-31 00:01) 

ひぐらし

ふ~む。ずいぶん、調べたようですね。その通りで、文庫本の解説にそういうことが書いてあります。なんか興味をもってくれて嬉しいです。
 住人歓迎!!
by ひぐらし (2006-03-31 21:03) 

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